鉄スクラップの基礎知識|種類・等級・価格相場などを紹介
鉄のリサイクルに欠かせないのが、鉄スクラップです。鉄スクラップとは鉄の廃棄物であり、これをリサイクルの原料とすることで再び製品に生まれ変わらせることができます。
鉄は、建物や自動車、鉄道のレールなど、使われる先はさまざまです。よって、鉄スクラップには高いニーズがあります。
そんな鉄スクラップは、発生する場所による分類があり、また等級も存在。鉄スクラップへの需要・供給環境や景気動向によって、価格相場も変化しています。
この記事で、鉄スクラップの基本や最近の状況を見てみましょう。
鉄スクラップとは?さらにその中でも分けられる2つの種類
鉄スクラップとは、平たくいえば鉄くずのことです。不用品、廃棄物となる鉄ですが、鉄がリサイクルで新たに生まれ変わるための原料にもなります。
なお、英語のscrapは、切れ端、断片、廃棄物などといった意味です。
鉄スクラップは、「市中スクラップ」と「自家発生スクラップ」の2種類に大別されます。それぞれを見ていきましょう。
市中スクラップ
市中スクラップとは、市中で発生するスクラップのことです。この場合の「市中」とは、製鉄所や鉄鋼メーカー以外の場所を指します。
では、製鉄所や鉄鋼メーカー以外だとどのような場所で鉄スクラップが発生するのでしょうか。
具体的には、一般家庭(家電や内外装で使われる鉄、自動車)、オフィス(オフィス機器やオフィス家具)、製鉄所以外の工場(生産機械や製品に使えない端材などの鉄)、建物の解体現場、などです。
市中スクラップは、さらに2種類の分類ができます。工場から出たスクラップが、「工場発生スクラップ」です。それ以外のスクラップは「老廃スクラップ」と呼ばれます。
自家発生スクラップ
自家発生スクラップは市中スクラップの反対、つまり製鉄所や鉄鋼メーカーで発生するスクラップです。製鉄所などから発生し、そのまま同じ場所で鉄の材料として使われるため、「自家発生」という名称となっています。
よって、自家発生スクラップが市中に出回ることはあまりありません。
鉄スクラップの種類・等級について
肉料理店で「A5」「A4」といった牛肉の等級を見たことのある人もいるでしょう。
鉄スクラップにも、牛肉と同様に種類や等級が存在します。種類は、回収後の加工方法などによって、5種類があります。種類と等級、それぞれを見ていきましょう。
ヘビースクラップ
ヘビースクラップは、ギロチンシャーやガス溶断などで鉄のサイズを整えたスクラップです。HSおよびH1〜H4まで5つのの等級があります。とりわけH2は、新聞などで価格相場が取り上げられ、鉄スクラップ価格の指標の一つとなっています。
サイズによってどの等級に該当するか、表でご覧ください。
等級 |
寸法(mm) | 重量(kg) | |
厚さ | 幅・高さ × 長さ | ||
HS |
6以上 | 500以下 × 700以下 | 600以下 |
H1 |
500以下 ×1200以下 | 1000以下 | |
H2 |
3以上6未満 | ||
H3 |
1以上3未満 | ||
H4 |
1未満 |
プレススクラップ
プレススクラップは、鋼板などをプレス機で強く押し、直方体状にしたスクラップです。元々はどのような製品であったかによって、等級が分けられます。
等級 |
寸法(mm) | 元々の製品 |
A |
3辺の和が1800以下、最も長い辺が800以下 | 主に自動車 |
B |
A、Cに該当しないもの | |
C |
A・Bと上限の寸法が同じで、なおかつ3辺の和が600以上・1800以下 | 飲料缶 |
シュレッダースクラップ
シュレッダースクラップは、シュレッダーで破砕したスクラップです。こちらは寸法や重さなどではなく、製品が自動車であったかそうでないかで等級が分けられます。
等級 |
元々の製品 |
A |
主に自動車 |
B |
A以外の混合品 |
新断
新断は、薄鋼板を加工した後、製品にならず必要なくなったスクラップです。文字通り、新しく断ったスクラップであるので、鉄鋼メーカーにとっては利用しやすいものとなっています。
とはいえ、ある程度の酸化をしてしまう(さびとなってしまう)場合があり、この酸化の具合と回収後の加工方法によって、等級が分けられます。
等級 |
寸法(mm) | 酸化の有無など |
シュレッダー |
新断をシュレッダーで処理したもの | |
プレスA |
3辺の和が1800以下、最も長い辺が800以下 | 表面処理も酸化もしていないもの |
プレスB |
多少の酸化がある、もしくは、材質に悪影響を及ぼさない程度の表面処理がしてある | |
バラA |
幅・高さ500以下 × 長さ1200以下 | 表面処理も酸化もしていないもの |
バラB |
多少の酸化がある、もしくは、材質に悪影響を及ぼさない程度の表面処理がしてある |
鋼ダライ粉
鋼ダライ粉は、切削くずや切り粉が該当します。酸化の有無と形状によって等級が分けられます。
等級 |
寸法(mm) | 酸化の有無、形状 |
A |
酸化が少ないもの、チップ状のもの | |
B |
多少酸化しているもの、パーマ状のもの | |
プレス |
3辺の和が1800以下、最も長い辺が800以下 | 酸化の少ないものをプレス |
鉄スクラップの価格相場
鉄スクラップは、有価証券や生鮮食品などと同様に価格が日々、変動しており、それを基に関連業者が金銭を介して取引するものです。参考までに、本稿執筆時点で最新のH2の価格を見てみましょう。
鉄スクラップ(メーカー買値、1トン、東京。『日本経済新聞』2025年2月13日朝刊掲載)
H2 3万9000〜4万円
過去の相場も見てみましょう。
鉄鋼業界紙の『産業新聞』のウェブサイトには、H2の相場推移がグラフと表で掲載されています。1974年1月から現在までの相場が示されたものです。
この中で最も高値となっている時期が2008年7月です。価格相場は、6万2000円/トンでした。しかし、わずか2カ月後の同年9月には3万2000円/トンとほぼ半値に下落。そこからさらに2カ月後の同年11月は、なんと4000円/トンと7月の8分の1にまで相場が急落しています。
2008年9月は、金融機関のリーマン・ブラザーズが経営破綻し世界的な金融危機が起こった、いわゆる「リーマンショック」が起きた時期です。
このように、鉄スクラップは相場が急激に変動することもある点は、リスクとして覚えておいた方がよいでしょう。反対に、リーマンショックの前年である2007年12月のスクラップ価格相場は3万円/トンであり、約半年で価格相場が倍以上の金額に伸びた側面もあります。
近年でも、2022年5月に5万4000円/トンだった価格相場が、3カ月後の同年8月に2万8500円まで下落するといった、急激な変動がありました。
鉄スクラップに関する統計|3つのデータから分かる規模
鉄スクラップがどれほど市場、産業として規模の大きい分野であるかも見てみましょう。粗鋼生産量と鉄スクラップ消費量の比較、鉄スクラップの供給状況、鉄スクラップの輸出入の3つの視点から取り上げます。
粗鋼生産量と鉄スクラップ消費量
粗鋼生産量とは、炉でつくられた鋼の量のことです。誤解を恐れずにいえば、製鉄所でつくられた鉄鋼の量といえば分かりやすいかもしれません。
まず、2023年における日本国内での粗鋼生産量を見てみましょう。
2023年の日本の粗鋼生産量
高炉(転炉):6416.7万トン
電炉:2283.4万トン
以上の合計:8700.1万トン
次に、同じ2023年における日本の鉄スクラップ消費量を取り上げます。鉄スクラップは電炉での主な原料であり、また高炉(転炉)でも原料の一つとして活用されるものです。さらに、鋳物用などその他の用途もあります。
ここでは、転炉用、電炉用、およびそれら2つとその他の用途を合わせた合計の3点を見てみましょう。
2023年の日本の鉄スクラップ消費量
転炉用:873万トン
電炉用:2309万トン
転炉、電炉とその他の合計:3701万トン
電炉の粗鋼生産量と鉄スクラップ消費量がかなり近い数字になるのは、ご理解いただけるのではないでしょうか。前述のように、電炉での原料が鉄スクラップとなるためです。
一方で、高炉(転炉)の鉄スクラップ消費量を粗鋼生産量で割ると、1割を超える数字となります。現在の高炉メーカーは、二酸化炭素(CO2)排出削減の施策の一つとして鉄スクラップの活用を掲げているため、今後はより割合が高まっていくことも考えられます。
鉄スクラップの供給状況
先ほど取り上げた消費とは反対に、鉄スクラップの供給状況を見てみましょう。まず自家発生スクラップと市中スクラップを取り上げ、さらに市中スクラップのうち国内向けに供給される量と輸出される量に分けて紹介します。
2023年の日本の鉄スクラップ供給量
自家発生スクラップ:1217万トン
市中スクラップ:3230万トン
上記のうち市中スクラップの内訳
国内供給向け:2545万トン
輸出向け:685万トン
市中スクラップは、工場発生スクラップと老廃スクラップに分けられることも、前述しました。国内供給向けでこれら2つがそれぞれどのくらいの量になるのかも取り上げます。
国内供給向けスクラップの内訳
工場発生スクラップ(統計上は「加工スクラップ」):714万トン
老廃スクラップ:1781万トン
なお、これらは推計値であるなどの理由から、合計の数字が先ほどの国内供給向けスクラップの数字と合わない点を、ご了承ください。
以上から、老廃スクラップがとりわけ大きな鉄スクラップの供給源であると分かります。
鉄スクラップの輸出入
日本の鉄スクラップは品質が評価され、海外からのニーズがある原料です。一方、日本は海外の鉄スクラップを輸入しているのでしょうか。
2021〜2023年の3年間における鉄スクラップの輸出入量を見てみましょう。こちらの数字は、財務省の「貿易統計」を根拠としたもので、先ほどの推計値とは異なります。
|
2021年 |
2022年 |
2023年 |
輸出(万トン) |
730 |
631 |
693 |
輸入(万トン) |
9 |
9 |
5 |
輸出は多少のばらつきがあるものの、それなりに大きな量が毎年、輸出されていると分かります。
一方、輸出と比較すると、輸入はかなり少ない量です。戦後の日本は、輸入スクラップを重宝していた時代もありましたが、現代では完全に鉄スクラップの輸出国となっています。
鉄スクラップの今後 カーボンニュートラルへ向け今後もニーズ
前述のように、日本の鉄スクラップの需要と供給は、おおむね4000万トン前後です。景気動向によってこれらが時折、上下することがありつつも、長期的には数字を維持、もしくは、高まっていくことが考えられます。
なぜならば、世界的にCO2をはじめとする温室効果ガスの削減が求められ、そのためにリサイクルも求められ、そして鉄の分野ではリサイクルのために鉄スクラップが求められるからです。
そして、鉄スクラップをリサイクルに使うことで消費エネルギーやCO2排出量を削減できます。すでに、日本鉄鋼連盟のような業界団体や鉄鋼メーカーは、カーボンニュートラルへ向けての方針や具体策を掲げています。とりわけ日本製鉄は、「大型電炉での高級鋼製造」を打ち出しました。鉄鋼最大手が、電炉、そして鉄スクラップの活用を重視していることが、ここから読み取れます。
また、鉄スクラップの輸出は減っていく可能性があります。理由の一つは、ここまで触れたように、高炉メーカーも鉄スクラップをより活用していくと見られるからです。もう一つ、これまで鉄スクラップの輸出先であった国が経済的に成熟し、国内でスクラップを調達できるようになる点も挙げられます。
まとめ|鉄スクラップはますますなくてはならない存在に
鉄スクラップは、棒鋼をはじめとした建築用の材料、自動車の鋼板、高温の環境で利用できる特殊鋼など、最終的にはさまざまな形で利用されます。幅広い用途があるということは、それだけ社会からのニーズも高いということです。こうして鉄スクラップはなくてはならない原料である背景から、大規模な供給と消費が行われてきました。
今後、カーボンニュートラルの実現へ向け、少ないCO2排出量で鉄を生産できる鉄スクラップの存在感は、ますます高まっていくことでしょう。
リサイクルテック ジャパンにも、鉄をはじめ金属類のリサイクルについて展示があるので、ぜひご覧ください。また、鉄スクラップの新たなソリューションをアピールしたい企業にとっては最適の展示会です。出展がビジネスの進化につながることでしょう。
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