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二酸化炭素回収技術の動向や基礎用語を解説!CCSとCCUSを徹底比較
近年、大気中の二酸化炭素を中心とした温室効果ガス濃度が上昇した結果、地球温暖化が進行し、世界の様々な地域で熱波・干ばつなどが発生して大きな影響が生じています。素材業界を含む産業界全体で、地球温暖化対策として、二酸化炭素回収の取り組みを加速させなければいけません。
素材業界でGX(グリーントランスフォーメーション)や脱炭素、カーボンニュートラルに取り組んでいる方は、CCSやCCUSといった単語を見聞きした経験があるでしょう。いずれも二酸化炭素回収に関連した技術であり、意味を正確に把握する必要があります。
本記事では、二酸化炭素回収が必要とされる理由・背景事情や、CCS・CCUSに関して詳しく解説し、国や企業の取り組みもご紹介します。素材業界で二酸化炭素回収に取り組んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
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環境負荷を低減するために、二酸化炭素回収が必要とされている
近年、地球温暖化が進行し、熱波・干ばつなど、人類社会に大きな影響が生じています。地球温暖化の背景には二酸化炭素を中心とした温室効果ガスの排出量増加があり、環境負荷低減のために排出量を抑制しなければいけません。
状況を改善するために、国際協定「パリ協定」が策定され、日本政府はこれに批准し、2020年に「2050年までにカーボンニュートラルを実現を目指す」旨を宣言しました。素材業界の企業は、トータルの温室効果ガス排出量を削減する一環として、二酸化炭素回収を検討してみましょう。
以下、パリ協定および日本政府による「カーボンニュートラル宣言」の内容を詳しく説明します。
地球温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」
「パリ協定」とは、気候変動問題(地球温暖化対策)に関する国際的な枠組みで、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されました。「パリ協定」は、1997年に定められた「京都議定書」の後継として位置付けられた国際協定です。
日本も「パリ協定」に批准し、近年、気候変動対策の一環として二酸化炭素回収の取り組みが加速されています。
日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」
2020年10月の臨時国会で、菅内閣総理大臣(当時)は「日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」という主旨の宣言をしました。この宣言は、「2050年カーボンニュートラル宣言」などと呼ばれています。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を、除去・吸収量と差し引いて、トータルでゼロにする取り組みです。目標を達成するためには、二酸化炭素の排出削減のみならず回収技術の開発・普及が必要とされます。
これらを受け、CCSの社会実装に向けた環境整備推進のために、CCS長期ロードマップを策定することが第6次エネルギー基本計画で経済産業省から打ち出されました。2050年時点で年間1.2-2.4億tの二酸化炭素貯留を見据え、2030年までに事業環境を整備することを目標に、6つの具体的アクションを随時実施していくことが明記されています。
このうち、CCS事業への政府支援については、2030年までの事業開始と事業の大規模化・圧倒的なコスト削減を目標としたモデルとなる先進性のあるCCSプロジェクトの9案件を「先進的CCS事業」と位置づけ、二酸化炭素の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を一体的に支援していく方針が示されています。
またCCS事業法の整備に向けた検討に関しては、2024年5月に「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS事業法案)」が制定され、事業者への二酸化炭素貯留事業等の許認可制度を創設するなど、CCSの事業環境整備が進められています。
今後も、具体的アクションを国主導で進め、事業環境が整備されていくことから、素材業界を含む産業界全体でも、二酸化炭素の排出削減と回収に取り組んでいく必要があります。
二酸化炭素を分離・回収する方法
大気中の二酸化炭素を除去・回収することを、「CDR(Carbon Dioxide Removal)」と呼びます。そして、CDRを実現するための技術を「ネガティブエミッション技術(NETs)」と呼び、下表に示すように、2種類に大別可能です。
ネガティブエミッション技術の類型 |
具体例 |
自然プロセスを人為的に加速させる方法 |
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工学的プロセスによる方法 |
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出典:資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜大気中からCO2を除去する「CDR(二酸化炭素除去)」|エネこれ」
DACCSおよびBECCSで用いられるCCS、およびCCSを発展させたCCUSの概要です(詳細に関しては後述)。
- CCS:二酸化炭素を分離・回収し、地中などに貯留すること
- CCUS:二酸化炭素を分離・回収し、地中などに貯留したり、または利用したりすること
下表に、CCSやCCUSで用いられる二酸化炭素回収方法をまとめました。
化学吸収 |
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物理吸収 |
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膜分離 |
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物理吸着 |
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深冷分離 |
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出典:国立環境研究所 環境情報メディア「CO2回収・貯留(CCS) - 環境技術解説」
なお、現在は「化学吸収法」が多く用いられていますが、それ以外の方法に関しても研究・開発が進められています。
「素材工場の脱炭素化展」は、燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結します。素材業界で二酸化炭素回収に取り組んでいて、関連技術・支援サービスをお探しの方におすすめです。
二酸化炭素回収に関連した2種類の技術「CCS」と「CCUS」
上述したように、二酸化炭素回収では、CCSやCCUSが用いられる場合があります。素材産業で二酸化炭素を発生する設備・装置などを稼働しているのであれば、分離・回収するために、CCSやCCUSへの理解を深めておきましょう。以下、それぞれに関して詳しく説明します。
CCS:二酸化炭素の回収・貯留
CCSとは、発電所や工場などから排出される二酸化炭素を、他の気体から分離・回収した上で地中深くに貯留・圧入することです。「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」と訳されます。分離・回収された二酸化炭素は、パイプラインや船舶などで輸送され、地底の地層中(1,000m以上の深さ)に圧入して貯留(隔離)されます。
なお、化石燃料や地下水を長期間封じ込めていた安定した地層であれば、二酸化炭素の隔離も長期間可能です。砂岩などで構成される「貯留層」の上部に、泥岩などで構成される(蓋の役割を果たし、二酸化炭素を通過させない)「遮蔽層」が存在する地質構造が必要です。
CCUS:二酸化炭素の回収・利用
CCUSとは、発電所や工場などから排出される二酸化炭素を、他の気体から分離・回収した上で、地中深くに貯留・圧入したり、二酸化炭素を様々な形態で有効利用したりすることです。「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・利用・貯留」と訳されます。
なお、回収した二酸化炭素の利用方法には、水素と反応させ、合成燃料や合成ガス(メタネーション)として活用する以外に、ウレタンやポリカーボネート、オレフィンなどプラスチックとして活用する、コンクリート製品の製造、バイオ燃料を産生する微生物の培養などが挙げられます。
「素材工場の脱炭素化展」は、燃料・製造プロセスから工場全体に至るまであらゆる脱炭素技術が一堂に集結します。素材業界で二酸化炭素回収に取り組んでいて、関連技術・支援サービスをお探しの方におすすめです。
日本政府や国内企業の二酸化炭素回収に関する取り組み
二酸化炭素回収、貯留に関する仕組み・技術をご紹介しましたが、具体的な取り組み事例を知りたい方もいるでしょう。そこで、日本国内の取り組み事例として、新潟県長岡市および北海道苫小牧市で実施された二酸化炭素圧入実証実験をご紹介します。
新潟県長岡市の二酸化炭素圧入実証実験
2000年度から新潟県長岡市の南長岡ガス田で、経済産業省の補助事業として地球環境産業技術研究機構(RITE)が、二酸化炭素の帯水層貯留に関する実証試験を遂行した事例です。2003年7月から18ヶ月間で合計約1万トンの二酸化炭素が地下約1,100mの帯水層に貯留し、観測井などによって漏出モニタリングが実施されました。
この実証実験では、大規模な排出源から二酸化炭素を分離・回収したのではなく、市販の二酸化炭素を使用して試験を実施しています。システム全体をトータルで検証したわけではありません。
北海道苫小牧市の二酸化炭素圧入実証実験
経済産業省の委託を受けた日本CCS調査株式会社が、2016年度から北海道苫小牧市で大規模実証試験を遂行した事例です。具体的には、出光興産株式会社北海道製油所の水素製造装置から発生するオフガス(未利用で放出されるガス)から二酸化炭素を分離し、苫小牧沖の海底下に圧入しました。
なお、深度1,100~1,200mおよび深度2,400~3,000mの貯留層(合計2つ)に、年間10万トン以上を圧入しました。2019年11月22日に目標値である累計30万トンの達成が確認されたため、圧入を停止し、以後はモニタリングを実施しています(2024年9月時点では継続中)。
世界の二酸化炭素回収に関する取り組み
二酸化炭素回収は、日本だけではなく、世界の様々な地域で大規模実証実験や実運用が開始されています。下表に、海外で進められているプロジェクトの具体例をまとめました。
プロジェクト名 |
概要 |
Northern Lightsプロジェクト(※1) |
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Questプロジェクト(※1) |
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Petra Nova CCUSプロジェクト(※2) |
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(※1)出典:経済産業省「海外CCSプロジェクトにおける事業収支事例」
(※2)出典:JX石油開発「アメリカ Petra Nova CCUSプロジェクト」
Northern Lightsプロジェクトは、セメント工場から二酸化炭素を分離・回収する事例です。素材産業で二酸化炭素回収を実施する場合は、この事例からヒントを得られるでしょう。
二酸化炭素回収に関する課題
二酸化炭素回収に関する技術や国内外の取り組み事例をご紹介しましたが、克服するべき課題があります。具体的には、低コストで二酸化炭素回収が可能な技術・装置の開発が必要です。また、地中に貯留する場合は、安全性の確保や貯蔵の安定性など丁寧に説明して住民の理解を得なければいけません。それぞれに関して詳しく説明します。
低コストで二酸化炭素回収が可能な技術・装置の開発が必要
二酸化炭素の分離・回収、輸送などの各ステップで多大なコストが発生します。以下は、主なコストです。
- 分離・回収で使用する薬品に関するコスト
- 設備投資に関するコスト(回収設備や輸送用パイプラインの整備など)
- 運転維持管理に関するコスト(回収装置の電力消費など)
商用化されている化学吸収法(アミン系水溶液を使用)では、繰り返し使う場合、吸収した二酸化炭素を取り出すために100℃以上の高温で加熱しなければいけません。そのため、大量のエネルギーが必要な点が課題です。課題を克服するために、低コストで二酸化炭素の回収が可能な技術・装置を開発する必要があります。
地中に貯留する場合は、丁寧に説明して理解してもらう必要がある
CCSやCCUSで隔離されていた二酸化炭素が万が一漏洩しても、隔離されていたものに由来するのか、大気中にあったものなのかを判別することは困難です。漏洩経路の確定も難しいでしょう。
回収した二酸化炭素を貯留する場合は、地域住民を無視して強引に進めるべきではありません。国や企業が利害の調整を実施し、事前に地域住民に対して丁寧に説明して理解を得られるでしょう。
二酸化炭素回収に関する情報の収集なら「素材工場の脱炭素化展」へ
RX Japanが主催する展示会「素材工場の脱炭素化展(Green Process Japan)」では、二酸化炭素回収に役立つ技術・製品・サービスが数多く展示されます。
素材業界で二酸化炭素回収に取り組んでいる方は、ご来場の上、情報収集に役立てましょう。また、二酸化炭素回収に役立つ技術・製品・サービスを開発・製造・提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために、ぜひ出展をご検討ください。
下表に、開催地域・開催場所・日程をまとめました。
開催地域 |
開催場所 |
日程 |
大阪 |
インテックス大阪 |
2025年5月14日(水)~16日(金) |
東京 |
幕張メッセ |
2025年11月12日(水)~14日(金) |
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日本や海外の技術動向を踏まえて二酸化炭素回収の取り組みを
地球温暖化問題が深刻化している昨今、素材業界も含めて、産業界・社会全体で二酸化炭素回収に取り組まなければいけません。
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素材業界で二酸化炭素回収に取り組んでいる方は、ご来場の上、情報収集に役立てましょう。また、二酸化炭素回収に役立つ技術・製品・サービスを開発・製造・提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために、ぜひ出展をご検討ください。
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【監修者情報】
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステム並びに新エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他エネルギーシステム、資源循環に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他