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生分解性プラスチックとは?特徴や用途、問題点を解説
生分解性プラスチックとは、微生物により分子レベルまで分解され、最終的にはCO2(二酸化炭素)と水に分解されるプラスチックのことです。処分する過程で燃料を用いず、また、処理困難物が残らないため、環境にやさしい素材として注目を浴びていますが、現在は未だ普及しているわけではありません。
本記事では、生分解性プラスチックの特徴やメリット・デメリットを紹介し、何が普及を妨げているのかを解説します。また、将来性の高い生分解性プラスチックの製品も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
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生分解性プラスチックとは?
生分解性プラスチックとは、自然界に存在する微生物の働きにより分解され、最終的にはCO2(二酸化炭素)と水に分解されるプラスチックです。バイオマス(有機性資源)由来で、焼却してもCO2の増減に影響を与えないカーボンニュートラルな素材としても注目されています。
現代社会では、軽量で、加工性が良く、比較的安価なプラスチックは、わたしたちの生活に欠かせない素材として急激に増加してきました。食品の容器や家電製品など、プラスチックを使わずに生活するのはもはや困難といえるでしょう。
しかし、適切に回収されリサイクルされているプラスチックは環境問題を起こしませんが、未回収の廃プラスチックや、不法に廃棄された廃棄物の多くが日常で使われた廃プラスチックです。とくに問題視されているのが海洋に流出したプラスチックごみです。生分解性機能を持つプラスチックの普及は、美しい地球を次世代につなぐカギとなるかもしれません。
生分解性プラスチックの表示制度
生分解性プラスチックは、JISなどで規定された方法で製造され、製造後は安全性や重金属などの含有物などの基準を満たしているか試験されてからようやく市場に出回ります。全ての基準をクリアした生分解性プラスチックだけが、生分解性プラマークをつけられます。
なお、生分解性プラスチックは2000年以降、20年以上にわたって「グリーンプラマーク識別表示制度」で運営されてきました。しかし、グリーンプラという名称が植物由来という印象を与え、生分解性プラスチック本来の特徴を正確に表していないという意見もあり、2021年以降は「生分解性プラ識別表示制度」に変更され、マークも新たにされています。
また、陸上に比べて微生物の密度が著しく低い海洋において安全に生分解できる生分解性プラスチックは、「海洋生分解性プラ識別表示制度」により海洋生分解性プラのマークが表示されるようになりました。海洋プラスチックごみの抑制策としても、海洋生分解性プラスチックの普及が期待されます。
生分解性プラスチックの種類
生分解性プラスチックは、原料によってバイオ由来とバイオ由来+化石由来、化石由来に分類されます。具体的な種類の例は、以下をご覧ください。
生分解性プラスチックの製造方法
生分解性プラスチックの製造方法は、種類によって異なります。一例として、ポリ乳酸を使った生分解性プラスチックの製造方法を紹介します。
- サトウキビやトウモロコシなどの植物から澱粉を取り出す
- 澱粉を酵素分解して糖を取り出す
- 糖に乳酸菌を加えて発酵させ、乳酸をつくる
- 乳酸を重合しポリ乳酸をつくる
- ポリ乳酸を加工・成形し、プラスチック製品を製造する
生分解性プラスチックのライフサイクル
生分解性プラスチックは自然界に存在する微生物によってCO2と水に分解されます。畑でマルチフィルムとして使用された生分解性プラスチックの場合、使用後は微生物と接触しやすい畑にすきこむだけで生分解が可能なため、廃棄の手間が簡略化できます。
また、分別回収された生分解性プラスチックを、堆肥中で生分解を待つ方法や、メタンガス発酵でエネルギーを回収する方法もあります。土壌や堆肥中で生分解するとCO2と水に分解されるだけですが、メタンガス発酵の場合はエネルギー回収が可能です。
生分解性プラスチックの製品例
様々な企業で生分解性プラスチックが製造されています。以下で、いくつかの製品を紹介します。
生分解性樹脂 BioPBS™/FORZEAS™
三菱ケミカルグループ 株式会社では、土中の微生物により自然にCO2と水に分解されるPBS(ポリブチレンサクシネート)を用い、生分解性かつ植物原料をベースとしたコンパウンド樹脂「BioPBS™/FORZEAS™」を開発しました。BioPBS™/FORZEAS™は耐熱性が高く繊維との相溶性も高いPBSの特徴を有した素材です。
また、BioPBS™/FORZEAS™は、利用者のニーズに合わせ、性能や生分解性などを調整できる点も特徴です。使い捨て食器や紙カップ、農業用マルチフィルムなどの幅広い利用が期待されています。
PLA 樹脂|Luminy®
東京材料 株式会社が開発したPLA 樹脂「Luminy®」は、サトウキビ由来の生分解性プラスチックです。一般的なプラスチックと比べてCO2排出量を削減し、地球温暖化防止に貢献します。
また、Luminy®は耐熱性の高さも特徴です。石油由来の汎用樹脂と同程度の耐熱性を有するため、携帯電話やパソコンといった家電製品や自動車などの高熱下での利用が想定される製品にも使用されています。
海洋生分解性PLA『BIOFRONT®』
帝人フロンティア 株式会社の海洋生分解性PLA「BIOFRONT®」は、土中環境でのプラスチック残留問題、海中でのマイクロプラスチック問題の解決を目指して開発された素材です。トリガー物資を添加することで、生分解性が発現する分子量まで急速に分解します。
また、「BIOFRONT®」は実用期間の調整が可能です。耐久性と生分解性を両立した素材として、土木資材や農業資材、人工芝、包装材などの幅広い用途に用いられています。
生分解性プラスチックの特徴
生分解性プラスチックには種類が多く、原料や製品によっても特徴が異なります。多くの生分解性プラスチックに共通する特徴を紹介します。
ゴミとして蓄積されない
生分解性プラスチックは最終的にはCO2と水に分解されるため、ゴミとして自然界に蓄積されません。プラスチックごみ問題の直接的な解決方法のひとつとしても、生分解性プラスチックの利用を検討できます。
ただし、製品によって、生分解に要する時間や分解しやすい温度などが異なる点に注意が必要です。例えば、土中で生分解性を発揮する製品を海中で使用すると、分解に時間がかかり、ゴミとして蓄積されているように見えるかもしれません。使用する場面や廃棄環境によって、適切な製品を選ぶことが大切といえるでしょう。
熱可塑性がある
生分解性プラスチックは熱により柔らかくなる熱可塑性を持つ素材です。加工しやすいという点はメリットですが、高温下では強度が低下する可能性があるため、使用する場所や用途を厳選する必要があります。
生分解性プラスチックの用途
生分解性プラスチックは微生物によって分解されるため、半永久的に耐性が求められる環境で利用されることはほぼありません。主な用途を紹介します。
農業・土木資材
生分解性プラスチックは、農業や土木の資材として用いられることがあります。土や堆肥などの有機物に混ぜ込むだけで分解を促進できるため、使用した場所で廃棄できる点も農業資材・土木資材として用いられる理由といえるでしょう。主な用途は以下をご覧ください。
農業資材・土木資材の例
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ゴミ収集袋
生ゴミを回収する袋の素材に、生分解性プラスチックが用いられることがあります。生ゴミは堆肥化・ガス化させることで堆肥やメタンガスなどとして再利用できますが、生分解性プラスチックを用いることでゴミ袋ごと肥料やバイオガス原料として再利用でき、廃棄にかかる手間と廃棄物自体の大幅な削減につながります。
食品包装容器・医療用品・衛生用品
生分解性プラスチックは食品包装容器としても用いられることがあります。
食品包装容器の例
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使い捨てのスプーンやフォーク、ストロー、レジ袋などに用いられることもあります。また、使用後の回収・再利用が難しい医療用品や衛生用品にも、自然分解が可能な生分解性プラスチックが使われるケースがあります。
医療用品・衛生用品
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生分解性プラスチックを利用するメリット
生分解性プラスチックは様々な場面で活用されています。利用する主なメリットを紹介します。
廃棄物を削減できる
産業廃棄物は排出者責任の原則に基づき、事業者が処理責任を負わなくてはいけません。自社での廃棄処理が難しい時は、事業者のコスト負担により産業廃棄物処理業者に処理を委託しなければなりません。
生分解性プラスチックは最終的にはCO2と水になるため、自社で保管し、分解することができれば廃棄物自体を減らせます。廃棄費用を削減できるだけでなく、排出熱・CO2の削減にもつながります。また、生分解性プラスチックを利用した製品を開発し販売すれば、地球にやさしいエコフレンドリーな企業として認知される効果も期待できます。
堆肥やエネルギーを生成できる
生分解性プラスチックが堆肥化施設やメタンガス発生施設へと送られるなら、堆肥・エネルギー生成に役立てられます。
ただし、堆肥・エネルギー生成に利用するためには、生分解性プラスチックが正しく分別回収される必要があります。製品に識別マークをつけるだけでなく、消費者にもマークや分別回収の周知が求められるでしょう。
石油資源の使用量を削減できる
一般的なプラスチックは石油から製造されますが、生分解性プラスチックはトウモロコシやサトウキビといった植物だけ(一部、石油などの化石由来の製品もあります)で製造することも可能です。
加工性が高く、軽量かつある程度の強度を持つプラスチックは、今後も利用される場面が増えると考えられます。枯渇する可能性がある化石資源の使用量を削減するためにも、生分解性プラスチックが役立つといえるでしょう。
環境にやさしい素材は、生分解性プラスチックだけではありません。
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生分解性プラスチックのデメリット
メリットが多く、将来性も高い生分解性プラスチックですが、デメリットもあります。主なデメリットを紹介します。
分解速度が環境により異なる
生分解性プラスチックは分解速度が一定ではないため、環境状態によっては全てがCO2と水に分解されるまでに長大な時間がかかります。日本バイオプラスチック協会では、3ヶ月で60%以上が分解されることを生分解性の定義としていますが、環境が整っていない場合はそれ以上かかることもあるため注意が必要です。
なお、生分解性を評価する環境は、土壌・水・コンポスト(高温多湿)の3つがあります。生分解性プラスチックの種類によって、どの環境で生分解性を発揮するかが異なるため、利用前の確認が欠かせません。
例えば、ポリ乳酸を原料とする生分解性プラスチックは、コンポストでは分解されますが、土中や水中では分解が進みにくく、一部残存する可能性があります。また、バイオPBSはコンポストと土中では分解されますが、水中では分解されにくいという特徴を持ちます。
また、分解に適した温度も生分解性プラスチックの種類によって異なります。適切に生分解性を発揮するためにも、廃棄方法を見据えた原料・添加剤の選定が必要といえるでしょう。
耐熱性・強度が低い
生分解性プラスチックは熱可塑性があり、強度も低いため、利用する場面が限られます。例えば、スーパーやコンビニなどで食品容器として用いられることもありますが、電子レンジでそのまま調理できないため、加熱しない食品に限定して使用しなければなりません。
しかし、提供側が意図した方法で消費者が使用するとは限りません。生分解性プラスチック容器に入った魚を容器ごと電子レンジやオーブンに入れ、加熱調理をしようとする可能性も想定されます。生分解性プラスチックを使用する場合は、「加熱NG」「電子レンジ使用不可」と表示して、消費者に注意喚起する必要があります。
分別が必要
通常のプラスチックゴミや燃えるゴミとして廃棄すると、生分解性プラスチックが自然分解されず、廃棄過程に燃料を使用するだけでなく、過剰なCO2が排出するリスクがあります。生分解性プラスチックの特性を活かすためにも分解が必要です。
また、分別回収されない場合は、堆肥化・メタンガス生成への道も閉ざされます。生分解性プラスチックを使用する企業だけでなく、一般家庭にも生分解性プラスチックの分類方法と廃棄方法の周知が求められます。
生分解性プラスチックの問題点・普及しない理由
優れた特性を持つ生分解性プラスチックですが、十分に普及しているとはいい難いのが現状です。普及しない理由について解説します。
完全にカーボンニュートラルとはいえない素材もある
バイオ由来の生分解性プラスチックだけでなく、化石由来や化石由来の原料が含まれた生分解性プラスチックもあります。化石由来の物質が含まれている場合、生成時や焼却時にCO2が発生し、完全にはカーボンニュートラルとはいえません。
地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)により、2006年4月以降、CO2などの温室効果ガスを多量に排出する事業者は、排出量を算定して国に報告することが義務付けられました。カーボンニュートラルでないプラスチックなどの製品を扱う際にも同様の対応が求められるため、企業側の負担増につながるリスクもあります。
分別が難しい
生分解性プラスチックは、燃えるゴミやプラスチックゴミとして回収してしまうと本来の性質を活かせません。そのため、家庭や企業で正確に分別し、適切に処分する必要があります。
しかし、生分解性プラスチック自体の認知度が高いとはいえず、家庭で適切に分別されていないケースも少なくありません。また、分別したとしても、自治体で分別回収をしていない場合や、回収後に堆肥施設・メタンガス生成施設などの適切な場に送られていない場合もあります。
生分解性プラスチックの特性を活かし、地球温暖化防止につなげるためにも、家庭や企業、自治体への周知が重要です。
サステナブルマテリアル展で環境にやさしい新素材が見つかる
環境保全のためにも、ゴミ問題や地球温暖化問題を解決するような素材を選択し、利用することが大切です。また、社会への企業責任を果たすためにも、エコフレンドリーな素材の利用は欠かせません。
サステナブルマテリアル展は、環境にやさしい新素材が一堂に会する展示会です。各企業による商品化の事例なども紹介されるため、活用のヒントにもつながります。
下表に、開催地域・開催場所・日程をまとめました。
開催地域 |
開催場所 |
日程 |
大阪 |
インテックス大阪 |
2025年5月14日(水)~16日(金) |
東京 |
幕張メッセ |
2025年11月12日(水)~14日(金) |
【出展検討の方】
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環境に配慮して作られた素材を利用して脱炭素化実現へ
生分解性プラスチックは、最終的にはCO2と水に分解される環境にやさしい素材です。熱に弱く、強度が低いなどの問題はありますが、利用価値は高く、将来性が期待されます。
生分解性プラスチックを含むサステナブルな素材は、「サステナブルマテリアル展」でご覧いただけます。エコフレンドリーな企業を実現するためにも、ぜひご来場ください。
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【監修者情報】
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他